映画音楽作品集

『小津安二郎映画音楽集』は、小津生誕100周年の記念企画作品として2003年日本クラウンより発売された。
このCDには、斎藤高順が音楽を担当した7作品の主題曲が収録されている。
現在は、残念ながら廃盤となっており入手は困難だが、是非多くの人に聴いて欲しいと思えるような名盤である。

世界中で絶大な人気を誇る小津映画だが、音楽が評価されることはあまりなかった。
特に、斎藤高順以前の作曲家だった伊藤宣二や斎藤一郎の音楽は、地味で決して目立たず、あまり印象に残らないのが特徴といった風である。

これは、小津が意図的に作曲家に求めた結果だった。
音楽に限らず、俳優たちの演技も大げさな感情表現を抑制し、言葉や態度で観客に判らせるような説明的な演技を嫌っていたのだ。

音楽も同様で、悲しいシーンだから悲しい音楽、楽しいシーンだから楽しい音楽ではなく、何が起ころうと「お天気のいい音楽」を求めていたのだ。
この小津の要求に応えた斎藤高順の音楽は、音楽単独で聴いても十分に素晴らしい出来栄えだが、やはり音楽だけが一人歩きするようなことがない抑制された作品とも言える。

小津映画は、俳優の演技や音楽だけが決して突出することなく、全体が調和のとれた絶妙なバランスを保つことにより完成された芸術作品なのではないだろうか。

秋刀魚の味 主題曲/ポルカ/終曲

秋刀魚の味 主題歌・ポルカ・終曲(昭和37年度松竹作品より)
まず「主題曲」ですが、ハープの短い序奏のあと弦楽器によって奏される旋律は、父娘(笠智衆、岩下志麻)の淡々とした愛情や人生のわびしさを暗示させるものですが、ことに娘の花嫁姿を父が見送る感動的なシーンが想い出されます。
次の「ポルカ」は軽快なリズムの上に「サセレシア」風(「サセレシア」の解説を参照)のメロディーをのせたもので、いわば「小津調ポルカ」というべきものの代表作です。小津さんはこの曲が気に入って、自分で作詞しようといわれたほどでしたが、実現しないうちに世を去られました。画面では古い同窓生達(笠智衆、中村伸郎、北竜二)が恩師(東野英治郎)を囲んで人の世の無常を感じる場面のほか、全編にわたって使われております。「終曲」は娘を嫁にやって、一人ぼっちになった父の佗びしいシーンで、バイオリンが主題曲の旋律を奏し、もり上がって終ります。
(解説:斎藤高順)

秋日和 主題曲/ポルカ

秋日和 主題曲・ポルカ(昭和35年度松竹作品より)
里見弴原作によるこの映画「秋日和」の主題曲は美しい母娘(原節子、司葉子)のテーマというもので、弦の斉奏による音階のあと、さわやかな中にも一抹のわびしさを秘めて奏されます。特に娘の結婚を前にして母娘が榛名湖に旅行するシーンは、美しく思い出されます。
「ポルカ」は母の再婚話を進めるために娘の友人(岡田茉莉子)や亡父の親友(佐分利信)たちが色々骨を折る場面にしばしば現われる音楽で、軽快な曲にも拘らずなかなか画面を引きしめて評判の高かったものです。
他のポルカと同様アコーディオン、バイオリン、木管等が旋律を受け持っております。
(解説:斎藤高順)

早春 主題曲

早春 主題曲(昭和31年度松竹作品より)
さわやかな早春を想わせるようなマンドリンの独奏に始まるこの曲はタイトルとエンドだけに用いられ、劇中には現われておりません。マンドリンのあと弦、フルート、弦とつづいた後再びマンドリンによって曲は結ばれます。マンドリン独奏は当代の一人者、竹内郁子さんです。
(解説:斎藤高順)

東京物語 主題曲/夜想曲

東京物語 主題曲・夜想曲(昭和28年度松竹作品より)
老夫婦(笠智衆、東山千栄子)が成人した子供達を喜ぶ一方、世代の違いから実は取り残されていることに気づき、わびしい気持ちになるという全体のテーマを表現したこの「主題曲」は、ホルンの前奏のあと夜明けのきびしさを表現するような部分があってから、主要な旋律が弦楽器を中心に奏でられますが、美しさと格調の高さで、主題曲の中でも傑作の一つとされております。
「夜想曲」は老母が今はなき息子の嫁(原節子)を訪ね、お互いに温い心が通い合って涙ぐむという美しいシーンでバックに流れております。映画の時と同様に鳩山寛氏がバイオリンの独奏をしておりますが、美しい演奏をお楽しみ下さい。
尚この映画は文部大臣賞、毎日コンクール作品賞、都民映画コンクール金賞、アドルフ・ズーカー賞等数々の名誉に輝いております。
(解説:斎藤高順)

東京暮色 サセレシア

東京暮色 サセレシア(昭和32年度松竹作品より)
「早春」で主人公(池部良)が病気の友人(増田順司)を見舞って慰めるシーンのために作られた曲ですが、このような深刻な場面に小津さんは「サセパリ」とか「バレンシア」のような曲を注文され、かえって病人の哀れさが浮き彫りになって大変成功しました。
曲名は小津さんがつけられたもので、「東京暮色」では全篇のテーマ音楽として、又「彼岸花」ではレコードから流れてくるような扱いで使われております。
このように気に入った曲をいろいろな作品で用いるということは小津監督の一面をよく表わしており、興味のあることといえましょう。
(解説:斎藤高順)

浮草 主題曲/ポルカ

浮草 主題歌・ポルカ(昭和34年度大映作品より)
この「主題曲」ははじめ民謡風のひなびた曲を用いる予定になっていたところ、小津監督の希望で、劇の内容にとらわれない品の良い曲を、ということで作られたものです。従って映画では、タイトルとエンドにだけ使われておりますが、弦の美しい調べは、映画の格調の高さを暗示させます。
続いての曲は「ポルカ」に変わります。実はこれがこの映画のテーマ音楽というべきもので、冒頭旅役者の群をのせた連絡船が入るシーンに使用されたほか、中村鴈治郎の扮する主人公の現れるところでは必ずといって良いほどこの「ポルカ」が入っております。曲はアコーディオンとバイオリンが主に旋律を奏し、ところどころピッコロやマリンバが表面に現われる程度の単純なものですが、小津監督は大変喜ばれて、これ以後の映画には必ずと言って良いほど色々な「ポルカ」が作られております。
(解説:斎藤高順)

彼岸花 主題曲

彼岸花 主題曲(昭和33年度松竹作品より)
短い前奏のあと、弦楽器を主体にゆるやかな旋律が現われます。これは主人公夫妻(佐分利信、田中絹代)が、他人の娘には結婚をすすめながら、自分の娘(有馬稲子)が相手(佐田啓二)を見つけると、冷静さを失ってしまうという、矛盾した親心を現わす場面に出て来るテーマですが、いわゆる心理描写の音楽ではなく、小津監督がよく注文された”お天気の良いような”音楽です。
このあと弦楽四重奏で奏される部分は、京都の旅館の娘(山本富士子)に主人公が結婚をすすめる場面で用いた音楽で、このシーンは特に印象の深かったものです。又はじめのテーマが全楽器で奏され、曲は終ります。
里見弴原作になるこの映画は、文部大臣賞及び都民映画コンクール金賞を受賞しております。
(解説:斎藤高順)

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