Time is not money.

time is not money

「鯛夢出鳴門円也」
一体何のことでしょうか?この色紙は、小津監督からいただいた貴重な品ですが、不覚にもここに書かれている文字の意味を知らないままでした。もちろん、父高順は小津監督ご自身から意味を聞かされており、生前この色紙をとても大切にしていました。しかし、この言葉は小津ファンの間では有名なものだったんですね。

その謎解きは、片山杜秀氏の『ゴジラと日の丸』というコラム集に書かれています。片山氏が斎藤家を訪れ、父に小津映画のことをインタビューした際、この色紙に話が及んだのでした。

「鯛夢出鳴門円也」とは、「Time is not money.」のことを漢字の当て字で表わしたものだそうです。「Time is money.」は「時は金成」と訳しますから、「Time is not money.」の意味するところは、「時は金也ではなく、時はお金に換えられない大切なもの」とでもいった解釈になるのでしょうか。

恐らく、父もそのように理解していたのではないかと思います。でも、洒落者の小津監督のことですから、これには何かもっと深い意味が込められているのではないか、と熟考を重ねた片山氏は、英語と漢字の両面から、ユニークな解釈を導き出したのです。詳しくは、片山氏の著書を読んでいただくのが一番なのですが、片山氏の見解を踏まえたうえで、自分なりに考えてみました。

「Time is money.」は、アメリカ的合理主義の象徴的な考え方です。敗戦後、日本はアメリカ型の市場経済社会へと邁進し、高度経済成長の時代を迎えました。やがて、バブル景気を経て、バブル崩壊後の長い低成長時代へと移行していきました。そして現在、日本は一体どうなったのでしょうか?

小津監督が亡くなって約半世紀以上が経過しました。「Time is not money.」は、急速に「Time is money.」化していく戦後日本への、小津監督からの警鐘のメッセージだったのではないでしょうか。あくまで私見に過ぎませんが、以下のように解釈しました。

鯛夢 (日本人の志とは)
出鳴門円也 (鳴門の渦潮のごとき拝金主義から抜け出すことである)
つまり、日本人の生き方を見つめ直し、ふたたび本来の日本人らしさを取り戻すこと。それこそが、今に生きる我々日本人に課せられたテーマではないのか。

敗戦間近の頃、シンガポールで小津監督は徹底的にアメリカ映画を鑑賞したそうですが、戦時中にも関わらず、このような映画を作れるアメリカという国の底知れない国力に驚き、我々は戦う相手を間違えた…と仰ったそうです。敗戦後は、政治も経済もアメリカの書いたシナリオ通りに進むしかなかった日本ですが、その行く末には一体何が待ち構えているのでしょうか。

「鯛夢出鳴門円也」
この短い言葉には、小津監督特有の洒落と皮肉、そして未来に生きる我々への警告の意味が込められているのではないか。そのように思えてなりません。

動画について

①ブルー・インパルス ②オーバー・ザ・ギャラクシー ③オンリー・ワン・アース ④輝く銀嶺 ⑤東京物語(吹奏楽アレンジ) ⑥彼岸花(吹奏楽アレンジ) ⑦秋刀魚の味(吹奏楽アレンジ)

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