Aug 8, 2014

「サセレシア」はシャンソンだった?

「サセレシア」は、小津にとってお気に入りの楽曲だった。
最初に使われたのは、『早春』で池部良が病気の友人を見舞うシーンに用いられた。
次作『東京暮色』では、全編「サセレシア」で行くことになり、タイトルバックから色々なシーンのBGMにも「サセレシア」が使われた。
『彼岸花』でも、小津の強い希望によりワンシーンだけ使用された。

これほどまで、小津が「サセレシア」に愛着を示したのには訳があった。
小津は、フランスのシャンソン歌手ミスタンゲットが歌う「サ・セ・パリ」や「ヴァレンシア」がとても好きだったのだ。
昭和20~30年代に流行したシャンソンは、人生の喜びや悲しみ、男女の愛憎や家族愛、時には政治批判なども折り込んだエスプリを感じさせる歌詞が特徴的だった。

『東京暮色』は、小津映画の中では最も悲しく重苦しい内容の作品である。
山田五十鈴と原節子、有馬稲子による家族の葛藤、愛憎劇を軸に描かれた作品だが、ここで画面によく合った悲しい音楽を用いてしまうと、映画そのものが救い難いほど暗い作品になってしまう。
そこで小津は、人生賛歌のようで明るいメロディーだが、人間の内面にある愛憎や哀しみを表すようなシャンソン風の音楽を求めたのではないだろうか。

最初に『東京暮色』を観たとき、悲しいシーンのバックに流れる「サセレシア」の陽気な曲調に違和感を覚えた。
もちろん、小津はただ辛く悲しい物語を描きたかったわけではなかった。

「いくら、画面に悲しい気持ちの登場人物が現れていても、その時、空は青空で陽が燦々と照り輝いていることもあるでしょう。これと同じで、ぼくの映画のための音楽は、何が起ころうといつもお天気のいい音楽であって欲しいのです。」
そう語った小津は、シャンソンの歌詞にあるような人生観とエスプリを感じとって欲しかったのかも知れない。

「サ・セ・パリ」と「ヴァレンシア」をモチーフにした「サセレシア」は、8分の6拍子のリズムと独特なメロディーラインからなる。
明るく陽気なようだが、どこか哀愁と陰影を感じされるメロディーはまるでシャンソンのようである。
『東京暮色』のストーリーには、「サセレシア」のシャンソン風メロディーで正解だったのである。

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