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はじめに
2012年9月、小津安二郎の「東京物語」が、これまで世界中で公開された全ての映画の中でベスト1に選出された。
映画ランキングの類いは世界中に数限りなく存在するが、英国映画協会(BFI)が発行する映画専門誌『サイト・アンド・サウンド』(Sight & Sound)が10年に一度行う “THE GREATEST FILMS OF ALL TIME” は、70年以上の歴史を誇る世界で最も権威があり、信頼性の高いランキングと言われている。
その『サイト・アンド・サウンド』2012年9月号(2012年8月発行)に、批評家846人による “THE TOP 100 FILMS”、映画監督358人による “Top ten films” のランキングに関する記事が掲載されており、小津安二郎の「東京物語」が “THE TOP 100 FILMS” で第3位、”Top ten films” では第1位に選ばれたのである。
「東京物語」の公開から、実に60年の時を経て成し遂げた快挙と言って良いのではないだろうか。
日本国内では、1995年にキネマ旬報社が映画誕生100年を総括する特別企画として行った『日本映画オールタイムベストテン』が、全映画史を通して真の日本映画ベスト1を決定するものとして、映画ファンの注目を集めた。
ここでも、第1位に輝いたのは小津安二郎の「東京物語」であった。
小津映画の場合、映画音楽が注目されるということはほとんど無かった。
そこで、当サイトでは敢えて「小津安二郎の映画音楽」に着目してみたいと思う。
「東京物語」の主題曲は、尾道の厳しい夜明けを表すようなホルンの前奏で始まり、小津が好んだといわれるハープが奏でられ、その後弦楽器を中心とした主旋律が演奏される。
重厚感があり、小津映画の持つ格調の高さと美しい旋律は、小津作品の主題曲の中でも傑作の一つであることは間違いない。
しかし、「東京物語」の作曲を手掛けた斎藤高順(さいとうたかのぶ)は、その当時全く無名の新人作曲家であった。
何故そのような人物が、名作「東京物語」の作曲を任されたのか?
斎藤高順の回想録を基に、あまり知られることのなかった事実を紐解いてみたい。
「東京物語」メインタイトル/オリジナルのフィルム音声(1953年)より
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