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『サセレシア』と『ポルカ』
小津監督との第2作は『早春』でしたが、『東京物語』で書いたような叙情的な音楽は深刻なシーンには用いないで、逆に軽いリズミカルな曲を書くようにしました。
小津監督は『サ・セ・パリ』や『バレンシア』が大変お好きだということを聞いていたので、両方の曲を調べたところ、まず8分の6拍子で要所要所に共通する音が使われていることを発見しました。
そこで、とにかく拍子は8分の6とし、共通する音を楽譜に記載して、それを軸に自由に作曲したところ、『サ・セ・パリ』にも『バレンシア』にも似たようであり、でも少し違うような面白い曲が完成しました。
それを『早春』の中では池部良さんが友人の見舞いに訪れる深刻なシーンのバックに一回だけ使いました。
それを『早春』の中では池部良さんが友人の見舞いに訪れる深刻なシーンと、友人の葬式のシーンのバックに二回使いました。(※管理人訂正)
小津監督からは、「こういうシーンに、悲しい曲や綺麗な曲では画面と相殺してしまうので、歯切れのよい『サ・セ・パリ』や『バレンシア』のような音楽で頼むよ。」という注文でした。
この曲はBGMとして書いたのに、遠くから聞こえてくるレコードかラジオの音楽のようで、いずれにしても場面を大変盛り上げる効果があり、監督はとても喜んでくれるし、スタッフ一同にもきわめて好評でした。
そこで監督に作曲の仕掛けを話したところ、『サセレシア』という素敵な曲名を付けて下さいました。
よく考えてみると、『サ・セ・パリ』と『バレンシア』を繋げただけの駄洒落のようなタイトルなのですが、小津監督はそのような茶目っ気も持ち合わせていたのです。
そして、3作目の『東京暮色』では全編音楽は『サセレシア』一つでやろうと小津監督に言われ、タイトルバックからあらゆるシーンのバックに『サセレシア』を使い、とうとう1曲も作曲しないまま映画が出来上がってしまいました。
そして、3作目の『東京暮色』では全編音楽は『サセレシア』一つでやろうと小津監督に言われ、タイトルバックから深刻なシーンのバックに『サセレシア』を使いました。(※管理人訂正)
しかも、その後の映画も『サセレシア』で行こうと言われましたが、さすがに私の方が閉口して、小津監督が『ビヤ樽ポルカ』もお好きと聞いたので、ポルカ風の曲を作曲し使用させていただきました。
そしてこれも気に入られ、それ以後は色々なポルカを作曲しました。
ところが、『彼岸花』の時に監督の強い希望で、ワンシーンだけ『サセレシア』を使いました。
最後の作品になるとは思いませんでしたが、『秋刀魚の味』の時にも『サセレシア』を使いたいとおっしゃるので、「違う曲を書きます。気に入らなければ書き直しますから。」と言って書いたのが、あの映画で使ったポルカです。
これも気に入ってくれて、「次回作もこれでいこう。」と言ってくれたのですが…。
冗談だったかもしれませんが、「ぼくが詞を付けるから、宝塚の寿美花代あたりに歌わせてレコーディングしよう。」なんておっしゃっていました。
残念ながら、実現することはありませんでしたが。