東京の宿
坂本武 岡田嘉子
東京の宿は、小津安二郎第33作目の監督作品である。
1935年(昭和10年)に公開され、小津自身は32歳であった。
晩年、「自作を語る」の中では、次のように述べていた。
「この時、劇映画ではないが、六代目の「鏡獅子」を撮ってます。
記録映画です。
世の中の勢いがもうサイレントのやり方ではどうにもならなくなって来た頃でね。
この写真もサイレントでありながらトーキーの手法を入れざるを得なかった。
たとえば二人の対話の場面でね、しゃべっているAのセリフのタイトルを、
聞いてるBのアップの画面にインサートするような手法まで敢えてしたんだよ。」
(引用:「自作を語る」)
■ストーリー
女房に逃げられたうえ失業中の喜八は、ふたりの息子善公と正公を連れて、職を求め東京の工業地帯を歩き回っていた。どこへ行っても相手にされず、いよいよ所持金も底を尽きかけていた。
結局、宿無しが集まる木賃宿に泊まることになったが、喜八はそこで幼い娘を連れたおたかという女性と知り合う。喜八はおたかに淡い恋心を抱く。
ある夜、一膳飯屋に入った喜八は、そこで昔なじみの女おつねと偶然再会した。喜八親子の窮状に同情したおつねは、喜八のために仕事を世話してあげた。職を得て、ようやくまともな生活ができるようになったが、突然おたかと娘の君子は喜八親子の前から姿を消した。
落胆した喜八は、やけ酒を呑んでいた店でおたかの姿を見かける。幼い君子が赤痢にかかってしまい、治療費を捻出するために働きに出ていたのだ。おたかを助けるために、何とか金を工面しようと奔走した喜八だったが、盗みをはたらく以外に方法はなかった。
喜八は、盗んだ金を息子たちに託し、おたかの元へ届けさせた。喜八はおつねに子供たちの面倒を見てくれるように頼むと、自首するために警察へ向かった。
坂本武・・・喜八
突貫小僧・・・善公
末松孝行・・・正公
岡田嘉子・・・おたか
小嶋和子・・・君子
飯田蝶子・・・おつね
笠智衆・・・警官