戸田家の兄妹
吉川満子 坪内美子 三宅邦子 高峰三枝子
戸田家の兄妹は、小津安二郎第38作目の監督作品である。
1941年(昭和16年)に公開され、小津自身は38歳であった。
晩年、「自作を語る」の中では、次のように述べていた。
「これも家の空気は「お茶漬」に似てるね。
だから慎重に、母の愛情を中心にしたんだ。
この撮影はおしまいを急がされてね、今日あげないと封切に間に合わんという、時間はあと二時間。
そこで仕方なくロングでカラカラ廻しちゃったよ。
撮る方じゃ気になっても、画にしてみるとわからないものだね。
撮影中たのしんだ写真というものは出来栄えには関係なく好きになるもんだが、
その意味じゃ「戸田家」は気に入った作品といえるだろう。
佐分利、高峰(三枝子)もはじめてでね。
当時としては絢爛たるスター陣だった。
そのせいかな、今まで小津作品は当らんという定評を破って、まあ大入りだったんだね。
やっとこの時からかな、入るようになったのは?」
(引用:「自作を語る」)
■ストーリー
麹町の名家である戸田家では、母の還暦のお祝いのため家族全員が一堂に会した。終始上機嫌だった父は、つい飲み過ぎてしまった。5人の子供たちに囲まれ幸福を噛み締める父だったが、その日の夜、突然心臓の発作に見舞われ急死してしまう。
裕福な家庭であったはずだが、弁護士によると父に多額の借金があることが判明し、借金返済のためには屋敷を売却しなければならなかった。母と三女節子は、住む家を失ってしまった。
行き場をなくした母と節子は、仕方なく長男進一郎の家に居候させてもらうが、妻の和子は面白くなかった。度重なる嫌がらせに耐えられなくなった母と節子は、今度は長女千鶴の家に厄介になる。ところが、ここでも二人は冷たい扱いを受け、千鶴の息子の不登校をすぐに報告しなかったことで、母は千鶴から厳しく叱りつけられてしまう。
いよいよ行き場のなくなった母と節子は、荒れ果てた鵠沼の別荘で貧しく暮らすことになった。二男の昌二郎は仕事で天津へ行っていたが、父の一周忌のため帰国した。昌二郎は法事の後、母と節子が長男と長女の家をたらいまわしにされた挙句、鵠沼の別荘に追いやられたことを知り、兄弟姉妹たちの薄情さを非難した。
昌二郎は母と節子に、自分と一緒に天津で暮らすことを提案する。母と節子も、その提案に乗ってもいいと思った。また、節子は自分の親友時子を昌二郎の嫁にどうかと考えていた。
その後、時子が鵠沼の別荘を訪ねてきた。節子はいい機会だと思い昌二郎と時子を引き合わせようとしたが、照れ屋の昌二郎はあわてて砂浜へ逃げ出してしまうのだった。
藤野秀夫・・・戸田進太郎
葛城文子・・・母
吉川満子・・・長女千鶴
斎藤達雄・・・長男進一郎
三宅邦子・・・妻和子
佐分利信・・・二男昌二郎
坪内美子・・・二女綾子
近衛敏明・・・夫雨宮
高峰三枝子・・・三女節子
桑野通子・・・友人時子
河村黎吉・・・鈴木
飯田蝶子・・・女中きよ
岡村文子・・・鰻屋の女将
笠智衆・・・友人
坂本武・・・骨董屋