風の中の牝鶏
笠智衆 佐野周二
風の中の牝鶏は、小津安二郎第41作目の監督作品である。
1948年(昭和23年)に公開され、小津自身は45歳であった。
晩年、「自作を語る」の中では、次のように述べていた。
「「長屋」のあと「月はのぼりぬ」を書いたが、色々な事情で今に至るまで撮れない。
もうあの本じゃ駄目だがね。
―――作品というものには、必ず失敗作があるね、
それが自分にプラスする失敗ならいいんだ。
しかし、この「牝鶏」はあまりいい失敗作ではなかったね。」
(引用:「自作を語る」)
■ストーリー
時子は息子の浩と二人で、夫の修一が戦地から帰ってくるのを待っていた。わずかな蓄えも底をつき、親友の秋子に頼んで着物を売りに出したりして暮らしを支えていた。
ある日、浩が急に高熱を出し、病院では急性大腸カタルと診断された。一時は命の危険もあったが、幸いどうにか持ち直した。しかし、貧しい時子には病院への支払いのめどが立たなかった。
困り果てた時子は、同じアパートに住む織江に相談した。織江は密かに売春の手引きをやっていた。時子は織江の紹介で、月島の売春宿で客に体を売ってしまう。その金で治療費を払い終えることができたが、時子は罪悪感に苦しんだ。
やがて、夫の修一が復員してきた。修一は、最近浩が病気したことを知り、時子に治療費はどのようにして捻出したのか尋ねた。時子は動揺して答えることができなかった。時子の様子に疑惑を感じた修一は厳しく問い詰めた。ついに、時子は何もかも話してしまう。
修一は愕然となった。苦悩する修一は、思い余って自らも売春宿を訪れてみた。そこで、修一は房子という若い女と出会った。房子には母親がおらず、働けなくなった父親と幼い弟たちを養うためにこのような仕事をしていると話してくれた。
房子の境遇に理解を示した修一は、もっとまともな仕事を見つけてやると約束して帰った。時子も房子と同じで、苦しい生活を支えるためやむを得ずしたことなのだと頭ではわかっているのだが、修一にはどうしても気持ちの整理がつかなかった。友人の佐竹にも相談したが、もう済んだことなのだから忘れることだと助言された。
どうしていいのかわからなくなった修一は家へ戻った。時子は喜んで迎えてくれたが、修一はすがりつく妻の体を突き飛ばすと、勢いあまってそのまま階段から転がり落ちてしまった。幸い大事には至らなかったが、修一はこの一件で妻への愛情を確信した。同時に、妻の自分に対する誠意と深い愛情も確認できた気がした。
もはや過去の過ちは水に流し、二人で幸せな家庭を築いていきたいと心より願った。修一は時子を抱きしめ、時子も涙を流しながら、これからは二人で励まし合いながら生きていくことを誓い合った。
佐野周二・・・雨宮修一
田中絹代・・・時子
村田知英子・・・井田秋子
笠智衆・・・佐竹和一郎
坂本武・・・酒井彦三
高松栄子・・・つね
水上令子・・・野間織江
文谷千代子・・・小野田房子
中川秀人・・・時子の息子浩