大学は出たけれど
高田稔 田中絹代
大学は出たけれどは、小津安二郎第10作目の監督作品である。
1929年(昭和4年)に公開され、小津自身は26歳であった。
晩年、「自作を語る」の中では、次のように述べていた。
「高田稔君と田中絹代さんをはじめて使った写真だね。
僕の作品には学生物が多いけれど、若い俳優を使うとすれば会社員か学生かになるだろう、
ところが当時の会社員は種類が限られていたし、その点学生は、今みたいにお巡りさんと喧嘩するわけじゃなし、のんびりしてて、つまりナンセンスの材料になりやすかったんだな。
この作品は大体清水宏が自分でやるつもりの本が僕の処へ廻って来たんだ。
まあ、何でもこなせなければいけない、何かやりたい気があればそれをやらなければならない気持もあってね。
一体映画作家には、もちろん芸術的な考えのあるのは結構だが、いろいろなものをマスター出来る職人的な腕が必要だと思うね。
職人になりきっちゃ困るが。
その点当時はこういうもので職人的訓練が出来たというのは幸福だった。
誰に遠慮もなく好きなことが出来たから。
今の人はハメが外せないだろう……。」
(引用:「自作を語る」)
■ ストーリー
大学を卒業したものの定職につけない野本徹夫は、就職試験の面接で受付の仕事を勧められる。それは自分には相応しくないと言って断ってしまう。
下宿に戻ると、田舎から母親が婚約者の町子を連れて上京したことを知る。彼は自分が貧しい暮らしをしていることを二人には言えず、職に就いているふりをする。母親が帰ったあと、野本は町子に本当のことを打ち明ける。
二人は金銭のことで喧嘩になり、町子は徹夫に内緒でカフェで働き始める。友人の杉村がカフェで働く町子を目撃してしまい、野本は町子をひどく叱りつけた。
しかし、すぐに自分の不甲斐なさに気づき、これまで自分がどれほど怠け者で無責任だったかを認める。野本は、一度就職を断った会社に戻り、受付の仕事を喜んで引き受ける。すると重役は、野本を試したのだと言い正社員として認めてくれた。
高田稔・・・野本徹夫
田中絹代・・・町子
鈴木歌子・・・母親
大山健二・・・杉村
日守新一・・・洋服屋
木村健児・・・会社の重役
坂本武・・・秘書
飯田蝶子・・・下宿の主婦