母を恋はずや
吉川満子 三井秀男
母を恋はずやは、小津安二郎第30作目の監督作品である。
1934年(昭和9年)に公開され、小津自身は31歳であった。
晩年、「自作を語る」の中では、次のように述べていた。
「これは脚本の練りが足りない写真だった。
大きな家が没落して行くのが中心のプロットなんだ。
今ならいいが、当時はこれだけでは話にならなかったんだな。
それで母親が違うために妙なことになる兄弟の話にしたんだが、これが入ったために少々ダラついてしまったのだね。
ただ、これを撮っている時に父が死んだので、よく覚えています。」
(引用:「自作を語る」)
■ストーリー
上流家庭の梶原家は、両親と小学生の兄弟が幸せに暮らしていた。しかし、父親の突然の死により、質素な生活へと暮らしぶりは一変した。それでも、家族三人つつましく暮らし、やがて二人の息子は大学生になった。
母千恵子は、兄弟分け隔てなく育てているつもりだったが、兄貞夫から見ると母は自分には優しく、弟幸作には厳しいように見えた。どうして同じように接してくれないのか、長年不満を感じていた。
ある日、戸籍謄本を見た貞夫は、自分が千恵子の本当の子ではなく、死んだ先妻の子であることを知る。貞夫は、なぜこれまで本当のことを知らせてくれなかったのかと千恵子を責めた。
そのことで弟幸作とも喧嘩になってしまった貞夫は、横浜のチャブ屋(売春宿)に転がり込んだ。心配した千恵子は、チャブ屋まで貞夫を迎えに行くが、貞夫は冷たく突き放し母を追い返してしまう。
近くでそのやりとりを見ていたチャブ屋の掃除婦は、彼の冷たさを非難して「親を泣かせるものではない」と貞夫を諭した。我に返った貞夫は、家に戻って母にこれまでのことを詫びた。ようやく親子三人は和解し、一家は郊外の小さな家に引っ越して仲良く暮らした。
岩田祐吉・・・父・梶原氏
吉川満子・・・母・千恵子
大日方伝・・・長男・貞夫
加藤清一・・・その少年時代
三井秀男・・・次男・幸作
野村秋生・・・その少年時代
奈良真養・・・岡崎
青木しのぶ・・・その夫人
光川京子・・・その娘和子
笠智衆・・・服部
逢初夢子・・・光子
松井潤子・・・らん子
飯田蝶子・・・チャブ屋の掃除婦