長屋紳士録
坂本武 河村惣吉 笠智衆 飯田蝶子
長屋紳士録は、小津安二郎第40作目の監督作品である。
1947年(昭和22年)に公開され、小津自身は44歳であった。
晩年、「自作を語る」の中では、次のように述べていた。
「帰って来たばかりで疲れている処へ会社からは早く撮れ撮れ、だろう。
十二日で本を書上げたよ。
そんなに早く書けるのかというから、いやこれ一回だ、この次からはこんなに早くは書けんと言ったよ。
大体シンガポールで、僕は生涯のうち最も多量に外国映画を観たんだ。
それで、あいつもこれで少しは変るだろうと思った人もいるらしいんだな。
処が「長屋紳士録」、少しも昔と変らないというわけだ。
何てしぶとい奴だ、ってね」
(引用:「自作を語る」)
■ストーリー
数年前に夫を亡くし、その後息子まで失ったおたねは、ひとりで荒物屋をやって暮らしていた。ある日、長屋の向かいに住む田代が、戦災孤児のような身なりの少年幸平を拾ってきた。だが、田代は自分で面倒を見ることはできないが、かといって放り出すわけにもいかず、無理やりおたねの家に泊めてもらうことにした。
いきなり幸平を押し付けられたおたねは、内心では迷惑に思ったが、行く当てもない少年を見捨てるわけにはいかない。仕方なく一夜だけ泊めてやるが、さっそく寝小便をされてしまう。
腹を立てたおたねは、翌日から近所を回って幸平の引き取り先を探して歩いた。しかし、都合よく幸平の世話を引き受けてくれる家はなく、やむを得ず自分の家へ連れて帰った。そして、二人の生活を続けていくうちに、おたねはだんだんと幸平に親しみを感じるようになった。一緒に動物園へ行ったり、写真館で写真を写したりして、まるで本当の母子のように接するようになっていった。
やがて、おたねは幸平に亡くした我が子の面影を重ねるようになり、ついに幸平を自分の子として育てる決心をするのだった。そんな矢先、幸平の実の父親が訪ねてきた。父親は、東京へ仕事を探しにきていたとき、九段の辺りをうろうろしているうちに幸平の姿を見失ってしまったらしい。
おたねは、父親の誠実そうな人柄と幸平に対する深い愛情が感じられて安心した。父と子は、おたねに礼を言い去って行った。おたねは幸平の幸せを願いつつ、自分も養子を貰おうと思っていた。
飯田蝶子・・・おたね
青木富夫・・・幸平
河村黎吉・・・為吉
笠智衆・・・田代
坂本武・・・喜八
吉川満子・・・きく
小沢栄太郎・・・幸平の父
三村秀子・・・ゆき子
高松栄子・・・とめ
長船フジヨ・・・しげ子
河村祐一・・・平ちゃん
谷よしの・・・茅ヶ崎のおかみさん
殿山泰司・・・写真師
西村青児・・・柏屋