秋日和
原節子 司葉子
秋日和は、小津安二郎第52作目の監督作品である。
1960年(昭和35年)に公開され、小津自身は57歳であった。
晩年、「自作を語る」の中では、次のように述べていた。
「世の中は、ごく簡単なことでも、みんながよってたかって複雑にしている。
複雑に見えても、人生の本質と言うものは、案外何でもないことかもしれない。
これを狙ったのが今度の作品です。
それと、これは前々から考え、少しずつやっていたことだが、一つのドラマを感情で現わすのはやさしい。
泣いたり笑ったり、そうすれば悲しい気持、うれしい気持を観客に伝えることができる。
しかし、これでは単に説明であって、いくら感情に訴えても、その人の性格や風格は現わせないのではないか。
劇的なものを全部取り去り、泣かさないで悲しみの風格を出す。
劇的な起伏を描かないで、人生を感じさせる。
こういう演出を全面的にやってみた。
「戸田家の兄妹」の頃から考えていたんです。
しかし難しい方法でね、今度もまあまあの出来ですが、完全には行っていませんね。」
(引用:「自作を語る」)
■ストーリー
三輪秋子の夫が亡くなって7年が過ぎた。七回忌には、娘のアヤ子の他、亡夫の友人だった間宮、平山、田口の3人が集まった。友人たちは、学生時代には秋子に憧れていたが、今は美しく成長し適齢期を迎えたアヤ子の結婚相手を探そうとしていた。
間宮は、会社の部下後藤をアヤ子のお見合い相手にどうかと考えていた。しかし、アヤ子は母を一人残して結婚する気にはなれなかった。そこで、友人たちはアヤ子の心配を取り除くには、まず秋子が再婚を決めてしまうのが手っ取り早いのではないかと考えた。
そして、妻に先立たれ男やもめになった平山が、再婚相手の候補に挙がった。もちろん、秋子に再婚する意思などないが、この話を耳にしたアヤ子は母が父の友人と再婚するものと早合点してしまう。このことが原因で、秋子とアヤ子の間に諍いが生じてしまった。
アヤ子は友人の佐々木百合子に相談し、母の再婚話の真相を確かめてもらった。実は、秋子本人も知らない話で、田口らが勝手に仕組んだことだと知った百合子は、凄い剣幕で田口、間宮、平山のところへ怒鳴り込んで行った。誤解の解けた母娘は仲直りした。
二人は休暇を取って、伊香保の温泉旅館へ行った。その夜秋子は、自分はこれからも再婚はせず、亡き夫の思い出とともに一人で生きていく、とアヤ子に伝えた。アヤ子は後藤に嫁ぐ決心がついた。そして、アヤ子と後藤の結婚式も無事に済み、秋子は誰もいないアパートへ戻った。アヤ子のいなくなった部屋は寂しかったが、秋子は娘の幸せを祈りながら静かに眠りについた。
原節子・・・三輪秋子
司葉子・・・三輪アヤ子
笠智衆・・・三輪周吉
佐田啓二・・・後藤庄太郎
佐分利信・・・間宮宗一
沢村貞子・・・間宮文子
桑野みゆき・・・間宮路子
島津雅彦・・・間宮忠雄
中村伸郎・・・田口秀三
三宅邦子・・・田口信子
田代百合子・・・田口洋子
設楽幸嗣・・・田口和男
北龍二・・・平山精一郎
三上真一郎・・・平山幸一
岡田茉莉子・・・佐々木百合子
岩下志麻・・・受付の女性社員