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天皇陛下ご還暦奉祝のお催しに招かれ、両陛下からお言葉を賜る
両陛下からお言葉を頂いて・・・
斎藤高順 《平成6年3月25日発行》
今年(平成6年)2月21日、月曜日の午後3時半から皇居で警視庁音楽隊の演奏が予定されており、そのプログラムに、私が以前作曲した「組曲・エメラルドの四季」の中から「沖縄の夏」を加えたい旨、警視庁音楽隊の現隊長から電話を頂いたのがことの始まりでありました。
その後、再び連絡があり、宮内庁では作曲者も招待したいとの意向だと伝えられ、まったく降って湧いたような話ですが、私に否やはないのは言うまでもないことで、有り難くお受けしました。
当日は我が家から警視庁差し回しの車で皇居に向かい、乾(いぬい)門から入って広々とした美しいお庭を通って御所の玄関に到着しました。
そしてまず立派な応接間に通され、しばらくすると大広間に案内されましたが、大広間にはすでに指揮者の牟田久寿隊長を初め警視庁音楽隊の三四人の隊員が勢揃いしています。
向かい側には二列の客席が用意されていて、前列には宮内庁の方々、後列には警視庁関係者が着席し、私は後列の中程の席を与えられました。
間もなく侍従さんが配ってくださった、これも又立派なプログラムを拝見しますと、表紙には「天皇陛下御還暦奉祝お催し 平成6年2月21日 御所」とあり、表紙をめくってみますと、
《演奏曲目》
1 威風堂々 エドワード・エルガー作曲
2 アルルの女第二組曲よりメヌエット シャルル・ビゼー作曲
3 アルトサキソフォンとバンドのための「アニー・ローリー」
J・Dスコット作曲、兼田敏編曲 アルト・サキソフォン 鈴木裕章
4 エメラルドの四季より「沖縄の夏」 斎藤高順作曲
5 円舞曲「春の声」 ヨハン・シュトラウス作曲
となっていて、次のページには指揮牟田久寿隊長を初め演奏に加わった警視庁音楽隊の34人の隊員全員の氏名と演奏楽器名が記されています。
3時半直前に演奏者、参加者全員が起立し、天皇、皇后両陛下と紀宮様がご入場になられ、前列中央にしつらえられたお席にお着きになってから、全員が着席して会が始まりました。
まず、牟田隊長がお祝いのご挨拶を申し上げ、続いて演奏に入りました。
なかなか見事な演奏で、一曲ごとに盛大な拍手が送られ両陛下もご満足なご様子でした。
そして全曲の演奏が終わりますと、侍従さんが両陛下の前に進み出て、「『沖縄の夏』の作曲者の斎藤さんです」と、私を両陛下に紹介して下さいました。
私の前には紀宮様が着席していらっしゃいましたが、わざわざ席をお立ちになって椅子をどかせて下さいましたので、私は両陛下の前に進み出まして両陛下とちょうど向かい合う形になりました。
天皇陛下は微笑をお浮かべになりながら「タンチャメが少し入ってましたね」とおっしゃいましたので、私は天皇陛下が沖縄の音楽に精通しておいでになることに驚きながら「私なりの発想で作曲したオリジナル曲ですが、沖縄民謡の音階を用いましたためにあるいはタンチャメに似た所があったのかも知れません」とお答えしました。
さらに陛下は「この曲は何時頃作られたのですか」とお尋ねになりましたので「牟田さんの前に警視庁音楽隊長を10年間勤めましたが、その前に航空自衛隊中央音楽隊長をしており、その頃作曲しました。」とお答えしますと陛下は「『エメラルドの四季』とはどのような作品ですか」と再びお尋ねになりますので「日本中の美しい海や湖などからイメージを得て『若狭湾の春』『沖縄の夏』『十和田湖の秋』『オホーツクの冬』と、四楽章にした組曲です。このたびは沖縄に因んだ曲を加えたいとのことで選ばれたと思います」と申し上げました。
すると今度は皇后陛下から「『若狭湾の春』その他も聞きたいですわね」とのお言葉。なんという感激。
天皇・皇后両陛下から優しくお言葉を頂き、お答えすることができましたことはなんと名誉なことでありましょうか。
両陛下が退席なさいますと、今度は大勢の方々が私の前に集まってこられ、口々に「おめでとう」と言ってくださいました。
思いも掛けなかった素晴らしい体験をさせて頂き、感動と興奮が続いておりましたところ、その後1週間が過ぎたある日、牟田久寿隊長が我が家に来られ、更に有り難いお話がありました。
「演奏会の数日後、『侍従がご相談したいことがあるので音楽隊をお訪ねしたい』と女官から電話があり、間もなく千沢治彦侍従(天皇陛下に「沖縄の夏」の作曲者としてご紹介くださった侍従さん)が音楽隊においでになり『皇后陛下からのたってのお願いで、斎藤高順作曲「エメラルドの四季」4楽章全曲を聴かせてほしい』とのお話がありました」と、おっしゃるのです。
そして、牟田隊長はご希望に沿うためのいろいろな手段、方法を考えた揚げ句、CDの制作を思い立ち、警視庁の各機関と話し合った結果、予算その他すべてが整ったので「エメラルドの四季」4楽章だけのCDを作るべく音楽隊の練習に入ったとおっしゃいました。
CDは数十枚の制作で、非売品ですから市場には出回りませんが陛下に献上ののち、私にもくださるとのことです。
宮殿にお招き頂いたことだけでも感激いたしましたのに、その上身に余る名誉なことが再び実現しそうで、私の感激と興奮はまだまだ続きそうです。