「秋刀魚の味」にサンマが出ていた?

今年は、4月15日に中井貴惠さんの「小津日和」、7月29日には蓼科高原映画祭「夏の小津会」にも出演することになり、小津映画音楽についてのトークを行います。大したネタも持っておりませんので、色々と過去の文献や資料などに目を通したりして、何とか恥をかかずに済むように情報収集を行っております。

先日、「小津安二郎全集」(井上和男編)という大変高価な分厚い本を購入し読んでいたところ、ちょっと気になる箇所を発見しました。それは、「秋刀魚の味」の脚本の中にありました。笠智衆が、学生時代の恩師東野英治郎が営むラーメン屋「燕来軒」を訪れ、贈り物を渡そうとしているところへ、加東大介が客として店に入ってきます。

「小津安二郎全集」によると、加東大介の台詞は次のように記されています。「おい、サンマーメン!」と店主の東野英治郎へ注文し、さらに加東は笠智衆が戦争中自分が乗船していた駆逐艦の艦長だったことに気付きます。そこで、さらに次のように続けます。

「親父、サンマーメンもういいよ。ここはあんまり美味くないんですよ。どっか行きましょう。付き合って下さい」と笠に話し掛けます。サンマーメンとは、細麺の塩又は醤油ラーメンの上に、炒めたモヤシやキャベツ、キクラゲ等の野菜の入ったあんをかけた麺料理です。桑田佳祐がテレビ番組で紹介したことで、広く知られるようになりました。

ところが、映画ではそのシーンの台詞はサンマーメンがチャーシューメンに変わっています。従って、脚本にサンマーメンが登場していたことは、「小津安二郎全集」を読んだ人しか知らないことになります。

では、一体サンマーメンはいつチャーシューメンに変わったのでしょうか?そもそも、「小津安二郎全集」はなぜ映画とは違う脚本を掲載しているのでしょうか?

「小津安二郎全集」には、川喜多記念映画文化財団が所蔵する最終の撮影台本から収録したと書かれています。と言うことは、映画に使われた本当の最終稿は別なものであったことになります。

ちょっと気になったので、松竹大谷図書館に問い合わせてみたところ、こちらにも「秋刀魚の味」の台本が保管されていることがわかりました。そこで、早速見せてもらうことにしました。

松竹大谷図書館に保管してある最終稿(昭和37年11月15日完成審査)では、確かにサンマーメンがチャーシューメンに変更されていました。どうやら、こちらが本当の最終稿のようです。

恐らく、サンマーメンはあまり一般的ではないという理由から、チャーシューメンに変更されたのではないかと考えられますが、加東大介が言うはずだった「サンマーメンもういいよ。ここはあんまり美味くないんですよ。」という台詞が気になりますね。

この台詞が「秋刀魚の味」というタイトルの元ネタだったりして…という可能性を考えてしまいました。秋刀魚とサンマーメン…。一度も秋刀魚が出てこないのに、なぜ「秋刀魚の味」なのか?諸説は色々ありますが、案外小津監督お得意の遊び心から付けられたタイトルだったのかも知れませんね。

sight-and-art.org

動画について

①ブルー・インパルス ②オーバー・ザ・ギャラクシー ③オンリー・ワン・アース ④輝く銀嶺 ⑤東京物語(吹奏楽アレンジ) ⑥彼岸花(吹奏楽アレンジ) ⑦秋刀魚の味(吹奏楽アレンジ)

Translate

category

ページ上部へ戻る
Translate »