神田「ぼたん」
鳥すき焼き専門の老舗、神田「ぼたん」へ行ってきました。この店も南千住の「尾花」同様、小津監督が好んで通った都内の名店です。
鳥すき焼き一筋の老舗で、1897年(明治30年)頃に現在の場所で創業し、昔ながらの純和風建築の店舗は1929年(昭和4年)に建造されたそうです。東京大空襲の戦災から奇跡的に焼け残った江戸情緒漂う木造の建物は、2001年(平成13年)には東京都の歴史的建造物に選定されたとのことです。
小津映画に登場するような風情ある店構えにも驚かされますが、メニューは鳥すき焼きのみでガスコンロを使わない備長炭と鉄鍋による調理法により、昔ながらの伝統的な味を維持し続けています。
父が初めて、小津監督に連れられてこの店を訪れたのは、昭和27年の暮れ頃ではないでしょうか。それ以降、毎年小津監督の誕生日12月12日には「ぼたん」で宴会を開くのが恒例となり、父も毎回のように参加しました。
小津監督が亡くなった翌年、1964年(昭和39年)12月12日に元小津組有志の皆さんが集まって「監督を偲ぶ会」を開始しました。この会はその後もずっと継続され、現在の小津会へと受け継がれています。
父の遺品から、1997年(平成9年)12月12日に行われた時の会の名簿が出てきました。また、2001年(平成13年)2月15日には「小津を語る会」として、同じく「ぼたん」で宴会が催され、当時の案内文と参加者名簿も見つかりました。
参加者名簿には、俳優の須賀不二男、桜むつ子、三上眞一郎、田浦正巳、青木富夫らの名前も含まれていました。住所や電話番号の記載もありましたので、大変貴重な資料ではありますが一応公開は控えさせていただきます…(苦笑)。
明治30年頃から続く老舗は、小津組の皆さんに愛された粋な名店で、まるで小津作品の中にいるような不思議な気分にさせてくれました。