『東京物語』とモリコーネ、マッカートニー

『東京物語』とエンニオ・モリコーネ、ポール・マッカートニーとの間に、接点があるなどとは考えもしませんでしたが、「『東京物語』と日本人(小野俊太郎)」という書籍の中に、関連性を示す記述を見つけました。

『東京物語』のオマージュ作品と呼ばれるものはいくつも制作されていますが、『みんな元気』という作品の存在は知りませんでした。しかも、1990年のイタリア映画と2009年のアメリカ映画の2作品があり、イタリア版の音楽をエンニオ・モリコーネ、アメリカ版のエンディングテーマをポール・マッカートニーが担当していました。

イタリア版『みんな元気』は、監督ジュゼッペ・トルナトーレ、音楽エンニオ・モリコーネ、主演マルチェロ・マストロヤンニ、一方、アメリカ版の『みんな元気』は、監督カーク・ジョーンズ、音楽ダリオ・マリアネッリ、主演ロバート・デ・ニーロで、エンディングテーマにポール・マッカートニーが楽曲を提供しています。

とにかく、2本とも鑑賞してみることにしましたが、イタリア版はDVDが販売されておらず、Youtubeに動画がアップされていましたが、残念ながら日本語の字幕や吹替え版はありませんでした。アメリカ版の方はDVDが販売されているので、早速購入して日本語の字幕付きで鑑賞することができました。

主に、アメリカ版『みんな元気』の方と『東京物語』との比較になりますが、あらすじを以下にご紹介します。

妻に先立たれた初老の男は、妻の葬式以来顔を見せない4人の子供たちを実家へ招待することにしました。ところが、みんなとの再会を心待ちにしている父へ、子供たちから次々と断りの連絡が入ります。

ショックを受けた父は、都会で暮らす子供たちに会うため、はるばる列車やバスを乗り継いで訪ねていきます。最初に向かった先はニューヨークで、芸術家として活躍している息子を訪ねますが、電話しても連絡が取れず、顔を合わせることができませんでした。

次に、結婚してシカゴで暮らす娘夫婦の家を訪問しますが、夫婦や父子の間に何か問題を抱えているらしく、あまり歓迎されることはなく、すぐに家を発たなければなりませんでした。続いてデンバーへ向かい、オーケストラの指揮者をしている息子を訪ねますが、実際には指揮者ではなく打楽器奏者をしており、すぐに演奏旅行へ出るため相手ができないと言われてしまいます。

最後に、シカゴでダンサーをしている娘へ会いに行きますが、やはり何か隠し事があるようで、父と娘の会話は打ち解けたものとは言えず、ここでも忙しさを理由にすぐ別れざるを得ませんでした。

それぞれ、都会で活躍している自慢の息子や娘たちのはずが、久しぶりの再会なのにまるで歓迎されず、どこかよそよそしく素っ気ない態度を取られたうえ、とうとうニューヨークの息子とは連絡が付かないままでした。

子供たちに冷たくされ、落胆したまま家路につく父ですが、途中で心臓発作を起こし倒れてしまいます。入院した父のもとへ子供たちが集まり、急な父の来訪を歓迎できなかった理由を話し始めます。真相を知った父は激しく動揺しますが、やがて子供たちと和解し、クリスマスには子供たちを実家へ招きます。久しぶりに家族団らんの時を過ごした父は、亡き妻の墓前で「家族はみんな元気だよ」と報告します。

大雑把には上記のような感じで、『東京物語』によく似たストーリー展開とも言えますが、決定的な違いは原節子と東山千栄子に相当する役柄が登場しないことです。『東京物語』では、未亡人である原節子と義理の両親との心のふれあい、東山千栄子演じる母の死をめぐる家族間の心のすれ違いが物語の重要なテーマでした。

しかし、随所に『東京物語』を彷彿とさせるシーンが含まれており、例えば空に浮かぶ雲、電線と電柱、駅の構内、電車やバスの車内、車窓から眺めるラスベガスの風景など、小津映画にしばしば見られるカーテンショットのような映像が現れます。

また、父が息子の家に入れず、大きな荷物を抱えてニューヨークの街を彷徨うシーンは、『東京物語』で行き場を失った老夫婦が上野公園をあてもなく彷徨うシーンを思わせ、打楽器奏者となった息子に失望する父と子の会話シーンは、『一人息子』で夜間学校の教師に甘んじる息子の不甲斐なさを嘆く母と子の会話シーンと重なり、空想の中で食事をしながら父が子供たち一人一人の嘘や言い訳を問い詰めるシーンは、『戸田家の兄妹』で父の法要に集合した兄妹たちへ、佐分利信演じる次男が母への不義理を一人一人に問い質すシーンとの類似性を見ることができます。

そして、小津映画の特徴の一つである、独特な音楽の使い方にも共通点が見られました。父と娘が、娘の部屋で夕食をとるシーンのバックに微かな音量で音楽が流れますが、これは外から聞こえてくる環境音なのかBGMなのか、観るものに曖昧な印象を与えます。小津監督は映画の音楽とは聴くものではなく、どこからか聞こえてくるものと考え、『東京物語』で原節子のアパートを訪れた東山千栄子が、原と語り合うシーンのバックに流れる音楽は、感傷的なBGMに聞こえてしまうため、ほとんど聞こえないくらいまで音量を下げてしまいました。

ジュゼッペ・トルナトーレ監督とカーク・ジョーンズ監督が、音楽の使い方まで小津映画を参考にしたのか定かではありませんが、E・モリコーネやP・マッカートニーといった大物を起用しているわりには、音楽が前面に出過ぎず、程よく抑制の効いた使われ方をしている点は、小津映画の音楽と共通する印象を受けました。

また『みんな元気』は、妻とみに先立たれた夫周吉のその後を描いた『東京物語』の後日談として捉えることもできそうです。ただし、こちらに登場する子供たちは、実は父親思いの心優しい人間であったという描かれ方をしており、ほのぼのとした家族愛を感じさせます。ホームドラマという共通点はありますが、『東京物語』や『東京家族』とはまた一味違う、家族の葛藤を描いたオマージュ作品と言えるでしょう。

sight-and-art.org

動画について

①ブルー・インパルス ②オーバー・ザ・ギャラクシー ③オンリー・ワン・アース ④輝く銀嶺 ⑤東京物語(吹奏楽アレンジ) ⑥彼岸花(吹奏楽アレンジ) ⑦秋刀魚の味(吹奏楽アレンジ)

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