『秋刀魚の味』と「軍艦マーチ」

小津監督の遺作となった『秋刀魚の味』は昭和37年(1962年)の作品ですが、昭和28年(1953年)に公開された『東京物語』からちょうど10年後の作品になります。この間に、小津映画は9作品公開されましたが、そのうち7作品の映画音楽は父高順の作曲によるものです。

『秋刀魚の味』と『東京物語』は、どちらにも「軍艦マーチ」が使われました。小津監督は「軍艦マーチ」がお好きだったそうですが、父にとってもこの曲には特別な思いがあったらしく、「軍艦マーチ」のピアノアレンジ作品を遺しています。

「軍艦マーチ」 ピアノ:青木美樹

戦争を経験した人たちにとって、「軍艦マーチ」には郷愁だけでなく、悔恨の念が含まれているように感じます。敗戦後、大東亜戦争の真実は封印されたまま、70年以上の時が経ってしまいました。『秋刀魚の味』では、飲み屋街で「ブンガワンソロ」(インドネシア民謡)が流れ、続いて「軍艦マーチ」が聞こえてくるシーンがあります。

駆逐艦「朝風」の元艦長だった平山(笠智衆)と元一等兵曹の坂本(加東大介)は、三軒茶屋のトリスバー「かおる」へやってきます。戦後教育を受けた人は気付かないと思いますが、ここでの二人の会話には小さな嘘が含まれており、決して小津監督の本心から生まれたセリフでないことは明白です。

坂本 ねえ艦長、どうして日本負けたんですかね?
平山 ウーム、ねえ…
坂本 おかげで苦労しましたよ。帰ってみると、ウチは焼けてるし、食い物はねえし。それに物価はどんどん上がりやがるしね。

《中略》

坂本 けど艦長、これでもし日本が勝ってたら、どうなってますかねえ?
平山 さあねえ…

《中略》

坂本 勝ってたら、艦長、今頃はあなたもわたしもニューヨークだよ、ニューヨーク。パチンコ屋じゃありませんよ、ほんとのニューヨーク、アメリカの。
平山 そうかねえ…
坂本 そうですよ。負けたからこそね、今の若い奴ら向こうの真似しやがって、レコードかけてケツ振って踊ってますけどね。これが勝っててごらんなさい、勝ってて。目玉の青い奴が丸髷か何か結っちゃって、チューインガムかみかみ三味線ひいてますよ、ざまあ見ろってんだい。
平山 けど負けてよかったじゃないか。
坂本 そうですかね、ウーム…そうかも知れねえな、バカな野郎が威張らなくなっただけでもねえ。艦長、あんたのことじゃありませんよ、あんたは別だ。
平山 いやいや…

小津監督は、生涯に一度も戦争映画を撮らなかったと言われていますが、実は戦時中に2本の戦争映画を手掛けていました。どちらも完成しませんでしたが、それは『ビルマ作戦 遥かなり父母の国』と『デリーへ、デリーへ』という2作品です。

『ビルマ作戦 遥かなり父母の国』は、日中戦争出征中の体験を元に、昭和17年(1942年)に脚本を書きましたが、大本営陸軍報道部が求める軍国調映画ではなかったため、映画製作は中止になりました。その後、インド独立をテーマにしたチャンドラ・ボースの記録映画『デリーへ、デリーへ』を撮るため、軍報道映画班員としてシンガポールに滞在しますが、戦況の悪化に伴いこちらも中止となり、途中まで撮ったフィルムは全て焼却してしまいました。

そして、敗戦後はGHQの占領政策によって、日本の近現代史は大きく改竄されてしまったため、真実を描く戦争映画を製作することは不可能になったのです。戦争映画は戦勝国側にとって都合の良いストーリー以外は認められず、日本映画界は大きな嘘に加担するか、小さな嘘でお茶を濁す程度のことしかできなくなりました。

『秋刀魚の味』は、娘を嫁に出した夜、酒に酔った平山が、一人寂し気に「軍艦マーチ」を口ずさむシーンで終わります。

守るも攻むるも黒鐵(くろがね)の
浮べる城ぞ頼みなる

浮べるその城日の本(ひのもと)の
皇国(みくに)の四方(よも)を守るべし

真鐵(まがね)のその艦(ふね)日の本に
仇(あだ)なす国を攻めよかし

アメリカの公文書には、大東亜戦争の真実を著した記録が多数残されています。以下に引用する“「ルーズベルトに与うる書」市丸利之介中将”は、その代表的な記録文書と言って良いでしょう。「ルーズベルトに与うる書」の一部を抜粋してご紹介します。

今ここにあなた方の精神的貧弱を憐れみ、以下一言しばらく教えさとそうと思う。あなた方のすることを見れば、白人とくにアングロサクソンで世界の利益を独占しようとして、有色人種をその野望実現の前に奴隷化しようとするに他ならない。このために卑劣な策をもって有色人種を欺き、いわゆる悪意の善政によって彼らの本心を失わせ無力化しようとしている。

近世に至り、日本があなた方の野望に抵抗して、有色人種、とくに東洋民族をあなた方の束縛から解放しようと試みたところ、あなた方は少しも日本の真意を理解しようと努めることなく、ただあなた方にとって有害な存在だとして、かつての友邦を仇敵野蛮人と見るようになり、公然と日本人種の絶滅を叫ぶようになった。これは果たして神の意思にかなうものだろうか。

大東亜戦争によっていわゆる大東亜共栄圏が成立すれば、その中の各民族は私たちの善政を謳歌し、あなた方が今これを破壊することがなければ、全世界にわたる恒久的平和の到来は決して遠くない。

あなた方はすでに十分な繁栄にも満足することなく、数百年来のあなた方の搾取から逃れようとするこれら憐れむべき人類の希望の芽をなぜ若葉のうちに摘み取ろうとするのか。ただ東洋のものを東洋に返すに過ぎないではないか。あなた方はどうしてこのように貪欲でしかも狭量なのか。

大東亜共栄圏の存在は、少しもあなた方の存在を脅かさない。むしろ、世界平和の一翼として、世界人類の安寧幸福を保障するものであり、日本天皇の真意もまったくこれ以外にないことを理解する雅量があなた方にあることを希望してやまないものである。

『秋刀魚の味』劇中音楽

動画について

①ブルー・インパルス ②オーバー・ザ・ギャラクシー ③オンリー・ワン・アース ④輝く銀嶺 ⑤東京物語(吹奏楽アレンジ) ⑥彼岸花(吹奏楽アレンジ) ⑦秋刀魚の味(吹奏楽アレンジ)

Translate

category

ページ上部へ戻る
Translate »