「小津映画×斎藤高順メモリアルコンサート」を振り返って
11/12(日)、「小津映画×斎藤高順メモリアルコンサート」が無事終了しました。
リハーサル、本番とも、大きなトラブルもなく、出演者、スタッフ一同、大変満足度の高いコンサートを創り上げることができました。
お客様の反応も上々で、公演後のアンケートからも十分に楽しんでいただけた様子が伝わりました。
今はホッとひと安心という心境ですが、自分にとっても思い出に残る大変素晴らしいコンサートとなりました。
以前から、小津映画音楽によるオーケストラコンサートを開催したいという願望はありましたが、どう考えても実現は無理だろうと半ば諦めていました。
まず、小津安二郎作品の世界的な評価に対して、小津映画音楽の認知度は決して高いとは言えず、斎藤高順作品の人気・知名度も残念ながら十分とは言えないことから、集客が難しいことは目に見えていました。
それから、なんと言っても予算的な問題がありました。
自筆譜を浄書してパート譜を作成する費用、コンサートホール代、指揮者、演奏者、司会者はじめ、音響・照明・舞台監督などのスタッフへ支払う人件費、チラシ・ポスター・パンフレットの制作費、印刷・宣伝広告費など…、莫大な諸経費が必要になることは明らかです。
斎藤家には10人の演奏家がおり、もちろん全員協力するつもりはあるけれど、失敗に終わる可能性が高いから諦めた方がいいのではないか…という意見が大半でした。
当コンサートの企画が具体化したのは、ちょうど2年ほど前の年末でした。
ある夜、斎藤家四男潔(オーボエ)の妻めぐみ(クラリネット)から電話があって、今指揮者の井田勝大氏と呑んでいるが、井田氏が私に話があるということで、電話を代わってもらいました。
井田勝大氏は、Kバレエトウキョウ及びシアターオーケストラトウキョウの音楽監督で、グランドフィルハーモニック東京首席客演指揮者も務めるなど実績のある指揮者です。
また、井田氏はティアラこうとうでジュニアオーケストラの指導も行っていて、度々ティアラこうとうで指揮をする機会があることから、会場を管轄する財団職員とは親しいので、小津映画音楽によるオーケストラコンサートの話をしてみましょうか、との何とも嬉しいご提案でした。
井田氏と潔、めぐみは仕事仲間で、潔の長女みゆき(ホルン)、次女ちあき(クラリネット)とも面識があり、家族ぐるみの付き合いがある上、長男章一(チェロ)は井田氏が運営する音楽教室で講師を務めるなど、斎藤家とはとても近しい間柄でした。
そのうえ、財団職員の高橋輝紀氏はかつてめぐみの教え子として、クラリネットの指導を受けていたという繋がりまであったのです。
さらに、小津監督と父高順は共に深川出身で、父が故郷である深川のために書いた曲がティアラこうとうで演奏されたこともあるなど、以前よりホールとは浅からぬ縁がありました。
その様ないくつかの偶然が重なって、小津映画音楽によるオーケストラコンサートの企画は一気に現実味を帯びてきました。
その後、コンサート実行委員会を結成して、企画やコンセプト、予算とスケジュール、セットリスト、ゲストや演奏者の人選、広告宣伝などについて何度も話し合いの機会を設けました。
およそ2年にも及ぶ長い準備期間を経て、ついに「小津映画×斎藤高順メモリアルコンサート」の実現まで漕ぎつけることができました。
私自身、これまでに50~60人規模のイベントを主催した経験しかなく、しかも集客には毎回のように苦戦していて、結果的に少額の赤字を負担して終了…ということの繰り返しでした。
ティアラこうとう大ホールでの開催を前提に話を進めてきましたが、1200名の会場を埋めることなど本当に出来るのだろうか?……という心配の声は、実行委員会のメンバーのみならず、斎藤家の親族からも多数出ていました。
しかも、予算は限られており、思い切った広告宣伝を打つこともできません。
どうしたらお客様を集めることができるのか?……常にこの課題が重くのしかかる2年間でした。
集客の大きな助けになったのが、ゲスト出演を引き受けてくださったアーティストの皆様でした。
三男順(コントラバス)は、ゲスト出演してくださった川井郁子さん(ヴァイオリン)、竹内郁子さん(マンドリン)と長年にわたる親交があったため、お二人には普通ではあり得ないギャラにもかかわらず、快くご協力いただけることになりました。
大ホールを満員にするためは、あと一組話題性のあるゲストが必要と考え、特集コーナーに「小津が愛した世界の音楽」と「小津が生きた時代の昭和歌謡」を含めたいと提案し、新たにボーカリストの招へいを企画しました。
どちらも古い時代の洋楽と邦楽からの選曲となりますから、それらを得意とするボーカリストで、人気と実力があって高い集客力を持つアーティストをリサーチしました。
その結果、深川や小津映画との関連性はありませんが、コーラスグループのフォレスタが最も適任ではないかという結論に至りました。
しかし、川井郁子さんや竹内郁子さんのように斎藤家との繋がりもなく、しかも低予算で引き受けてくれることなどあり得るのか不安でしたが、思い切って直接連絡してご相談してみました。
すると、驚いたことに当企画にご賛同くださり、低予算にもかかわらず快くご出演してくださることになったのです。
また、男性2名、女性2名での参加を希望したところ、人気・実力ともにトップクラスの4名を選んでくださいました。
こうして、川井郁子さん、竹内郁子さんに加え、フォレスタより横山慎吾さん、塩入功司さん、吉田和夏さん、小笠原優子さんの4名を含め、計6名のゲスト出演が決定しました。
当日は、小津映画の主要なテーマである「家族」にスポットを当てるため、斎藤家10人の演奏家に加え、高順の弟鶴吉(元NHK交響楽団のチェリスト)、川井さんの長女花音さん(タレント)にもご登壇いただき、「家族」についてのお話を伺うなど演出にも工夫を凝らしました。
まさに「家族を描き続けた小津映画を家族が奏でる、日本中の家族に捧げる心温まるコンサート」と付けたキャッチコピーそのままに、アットホームなコンサートになったのではないでしょうか。
最後まで懸念材料だった集客は、常にティアラこうとうチケットセンターとチケットぴあの販売状況を確認し、先手を打って集客活動を続けた成果が徐々に出始めていましたが、当初目標に掲げた800名までは到底届かないだろうと思われました。
ところが、コンサート当日になってビックリ!
最後列まで埋まるほどの大盛況ぶりには、何か目に見えない力が働いたとしか思えませんでした。
天国の小津監督と父高順が力を貸してくださったに違いありません。
ここまで来た以上、もはや赤字の額は特に気になりませんでした。
どれほどの赤字が出ようと、これほど素晴らしいコンサートを開催でき、沢山のお客様に楽しんでいただけたのですから、自分としてはもう十分に満足でした。
コンサートは無事に終了し、数日後に最終的な損益も確定しました。
収支報告書を見て、またビックリしました!
これまで、どれほど小規模なイベントでも赤字しか出したことがなかったのに、これほど大規模なコンサートであったにもかかわらず黒字でした!
12/8(金)に父高順の白寿祝いも兼ねて、関係者一同で盛大に打ち上げを行う予定ですが、今回の黒字は全額そこに充てようと考えています。
11/12(日)の「小津映画×斎藤高順メモリアルコンサート」は、小津監督が愛した「お天気のいい音楽」が大ホール中に響き渡った、まるで奇跡のような一日であり、全てにおいて大成功のコンサートでした。
斎藤民夫(斎藤高順次男、コンサート実行委員長)