日本のシネマ ~映画音楽作曲家のピアノ曲~
花岡千春氏は、高名なピアニストであり国立音楽大学教授及び同大学院教授でもある気鋭の音楽学者です。
『日本のシネマ ~映画音楽作曲家のピアノ曲~』は、昭和の日本映画音楽界に偉大な足跡を遺した作曲家たちのピアノ独奏曲ばかりを集め、花岡氏の卓越した技量と独特の解釈により表現された作品集です。
収録曲は、斎藤高順、黛敏郎、松村禎三、早坂文雄、芥川也寸志、木下忠司のピアノ小品です。
「知の巨人」とも言われる花岡氏は、斎藤高順の作品を次のような言葉で分析しています。
ひとは斎藤を非常に穏当な作曲家と捉えているかもしれない。しかし実は、このアルバムに収めた二つの曲集に聴くことができるように、かなり実験的な作品も書いている。あるいは自衛隊音楽隊のコンポーザー(隊長でもあった)としての、ブラス作品の数々に接すると、ある意味では幾つもの顔を持っていた音楽家であることがわかる。
プロムナードが、プーランクの同名の曲集に触発されているだろうことは、第一曲を聴けば明白である。ノンシャランで、少々皮肉っぽいこの複調の作品は、プーランクの同集の第一曲目とピタリと重なる。3曲目のみ、すこしルーセル風と言えるかもしれないが、ぴりっとしたセンスの中に和風の拝情も見事にはめ込まれている。
私たちが映画音楽で知っている斎藤の顔は、むしろこどものためのピアノアルバムで露わになる、すみれに寄せた1曲目には彼の旋律の特徴というか、クセのようなものが聴き取れる。