竹内郁子さんと小津映画音楽
写真左から、斎藤高順、竹内郁子、吉澤博
9月27日(金)夜、斎藤ファミリーの三男コントラバス奏者斎藤順のコンサートが、渋谷のセルリアンタワー東急ホテル2階タワーサイドテラスにある”JZ Brat SOUND OF TOKYO”で開催されました。我々は翌日の蓼科高原映画祭へ参加するため、翌朝早くに出発しなければならないので、夕方行われるリハーサルに少しだけお邪魔しました。
リハーサル訪問の主な目的は、ゲスト出演するマンドリン奏者竹内郁子さんにお会いするためでした。竹内さんは今年88歳になられたそうですが、現在も現役プレーヤーとして活躍されているマンドリン界の第一人者です。
竹内さんと小津映画音楽の関係は、1956年(昭和31年)に公開された小津安二郎監督作品『早春』の主題曲まで遡ります。『早春』の主題曲は、マンドリンの優しい音色が大変印象的な楽曲ですが、実は1956年(昭和31年)公開の映画音楽にマンドリンは登場していなかったのです。
小津監督は実に多才な方で、書や絵画はプロ並みでしたが、マンドリン演奏にも才能を発揮され、代用教員時代には教え子の前でマンドリン演奏を披露したそうです。佐田啓二さんのギターと協演している写真も残っています。
小津監督が亡くなった翌年、1964年(昭和39年)に日本クラウンより発売された「小津安二郎名作映画音楽集」に収録されている『早春』の主題曲で、初めてマンドリン演奏が用いられました。
レコードの解説文には、次のように記載されていました。
さわやかな早春を想わせる様なマンドリンの独奏に始まるこの曲はタイトルとエンドだけに用いられ劇中には現われて居りません。マンドリンのあと弦、フルート、弦とつづいた後再びマンドリンによって曲は結ばれます。マンドリン独奏は当代の一人者、竹内郁子さんです。
幸運なことに、このマンドリン演奏を生で聴くことができました。竹内さんのマンドリン演奏は、レコーディング当時と少しも変わることはありませんでした。本物の『早春』の主題曲を間近で聴くことができて、本当に感激の一言です!
また、父高順は竹内さんのマンドリンアンサンブルのために、「東京物語」「サセレシア」「秋刀魚の味」のマンドリン用の楽譜を遺していたのです。竹内さんから、父の自筆譜を戻していただきました。
竹内郁子と東京マンドリン・アンサンブルによる「小津安二郎メモリアル曲集」は、2004年6月に日本青年館大ホールで演奏されました。父高順は同年4月に他界したため、このコンサートを聴くことは叶いませんでした。
コンサートのプログラムを以下に掲載します。父が直筆で曲の解説文を書いています。
《マンドリン演奏会プログラム》